60歳からの再雇用賃金、給与の相場はどのぐらい?

人生100年時代と言われるようになってきて、会社も社長も従業員も、高齢化しています。
あなたの会社では、従業員の定年後再雇用についてどのように対策をされていますか?

雇用の義務は60歳まででしたが、令和3年度(2021年)からは、70歳までの雇用が努力義務化されました。やがて、70歳までの雇用が義務化される日もやってくる可能性が高いでしょう。

60歳で定年した従業員が、65歳までの勤務延長を希望する割合も非常に増えてきました。しかし、その社員の出来・不出来や会社への貢献度に関係なく、どんな社員でも本人が雇用延長を希望した場合、会社は拒否できないわけです。

ここで経営者がいちばん気にするのが「再雇用時の賃金をどうすればいいのか?」というポイントです。
一般的に定年後の再雇用にあたっては、現役時よりも賃金を低く設定したいと考える社長さんが多いことでしょう。それにあたって「どのぐらいの下げ幅が、労使共に納得できるラインか?」という、いわゆる相場を知りたいというのは当然の流れですよね。

実はこの問題に対しては、当協会にも多くの悩みが寄せられます。
ですが、最初に結論から申し上げれば、「目安はないわけではないが、明確な相場はない」というのが答えです。

その理由や目安、そして具体的にはどうしたらいいのかについて解説していきます。

賃金を過度に下げるのは、同一労働同一賃金の原則に反するのではないか?

まず、定年後再雇用に関して大きく関わってくるのが「同一労働同一賃金」の原則です。これに関しては多くの方がご存知かと思いますが、あらためて定義から確認します。

「同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。」

(厚生労働省HPの説明より引用)

雇用形態にかかわらず、同じ労働をしたものに対しては同じ賃金を支払い、公正な待遇を確保するのが同一労働同一賃金です。この同一労働同一賃金に関しては、待遇の差が存在する時にどんな差が不合理となるのかを明記したガイドラインが定められているのですが、この中には定年後に継続雇用された社員についてのガイドラインも記載されています。引用します。

定年後に継続雇用された有期雇用労働者についても、パートタイム・有期雇用労働法が適用される。有期雇用労働者が定年後に継続雇用された者であることは、待遇差が不合理であるか否かの判断に当たり、その他の事情として考慮されうる。様々な事情が総合的に考慮されて、待遇差が不合理であるか否かが判断される。したがって、定年後に継続雇用された者であることのみをもって直ちに待遇差が不合理ではないと認められるものではない。

(厚生労働省・同一労働同一賃金ガイドラインより引用)

これをお読みいただくとわかる通り、定年後の再雇用に関しては、「様々な事情が総合的に考慮されて、待遇差が不合理であるか否かが判断される」と曖昧な形で表記されています。シンプルにいえば、「定年後に再雇用した従業員に関しては、賃金が下がることは合理的な理由として認められる」ということです。

この基準の曖昧さが、多くの経営者を悩ませています。

「どれくらいまでなら合理的に下げることができるのか? 適正な下げ幅はどのぐらいか?」ということに対する、明確な結論を得づらいのです。

これに関して、ある判例があります。
平成30年6月、最高裁において、正職員(無期雇用)と定年後再雇用職員(有期雇用)との間における待遇差について、労働契約法20 条違反の有無が争われた裁判の判決が下されました。
(最高裁平成30年6月1日判決・民集72 巻2号202頁1)

こちらは、定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が「定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だ」として勤務先の運送会社「長澤運輸」(横浜市)を訴えた訴訟です。

判決の詳細についてはここでの解説は避けますが、この時裁判所から、「定年後に再雇用された有期雇用職員の基本給が、正社員退職時の60%程度までなら、賃金の低下はある程度は不合理とはいえない」という判断が下されました。

2023年現在、この「60%程度」というのがひとまずの目安とは言われています。
ただし、これはあくまで判例であり、再雇用に際しての賃金引下げに関する公的な資料は存在しません。この事案に関しても、裁判所からは「ある程度は不合理とはいえない」という曖昧な言い方で意見表明しているため、あくまでケースバイケースだ、という言い方しかできないのが実情です。

先程のガイドラインにある通り、「様々な事情が総合的に考慮されて、待遇差が不合理であるか否かが判断される」から、これを一概に鵜呑みにして賃金を設定することにはリスクがある、というのが正直なところです。

明確な再雇用時賃金の相場はない。では、どうしたらいいのか?

以上のようにいくつかの目安は存在するものの、実際にどの程度が労使共にメリットのある下げ幅かを探るためには、労使それぞれの事情を総合的に考慮しなければいけません。

特に、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付金といったような高齢の従業員に対して支給されるお金や、所得税控除・住民税といった要素なども合わせて検討する必要があります。

こうした事情をよく理解しないまま、「えいやっ!」で定年後再雇用時の賃金を設定してしまう会社が非常に多いのですが、ここまで見てきたように、場当たり的な賃金決定では各種制度をうまく活かしきれず、結局会社も社員も損をしてしまっているケースが非常に多いのです。

再雇用時の賃金設定については、ぜひ従業員退職のタイミングを迎える前から、専門家を活用しながらしっかり準備をしておくことをお勧めします。

p.s.

分かりづらい定年後再雇用時の賃金設定について解説した、当協会発行の小冊子も出ています。よろしければこちらも合わせてどうぞ。

「定年後の再雇用、賃金の決め方ひとつで会社も従業員もこんな得をする!」紹介ページへ

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